人はどこから来てどこに行くんでしょう……

 

 トゥルルル……
 気持ちのいい朝の喧噪の中、ポケットの中の携帯が着信をつげる。その持ち主のツインテールの女の子は手に取った。
「もしもし?」
「……サヤかい?」
 声の主は沈痛な声を上げる。
「ユウヤ? どうしたの」
 サヤは相手の声に気にした様子もなく、何気ない調子で問い返す。
「もう……駄目だ」
 ユウヤは、短くそんなことを言った。
「……どうしたの?」
 サヤもまた、短く問い返す。
「それはね――う、失礼」
 電話口を通じて、伝わってくるのはくぐもった音。電話口を押さえているようだが途切れ途切れにサヤの耳に聞こえる。どうやら、咳き込んでいるようだ。
 やがて、落ち着いたのかユウヤが淡々と語り出す。
「人間死ぬ時って、どんな気分なのだろう……」
「それは――」
 経験したことのないサヤには、計り知れないものである。
 ただ、それは、ひどく悲しい――
「どうしようもない、無力感。何で、人は死ぬんだろう……この手には何が掴めたのか……そして、人はどこから来てどこへ行くんだろう」
「……お母さんから生まれて、お墓に行くのよ」
 そんな質問、答えようがないためにサヤは適当に受け答えをする。
「なるほど。極論だね。それは間違ったことではないが求められている回答ではない。これは、哲学における真理だからね」
 サヤには、ユウヤが頭を片手で添えているのが目に浮かぶようであった。
「頭が朦朧として……ふふ、こんな時に花畑が見えるっていうのは、あながち嘘じゃないみたいだ」
 サヤは何も答えない。
「ねえ、サヤ。あの時のこと覚えてるかい? 子供の頃のこと。あの花畑のこと」
 どこまでも感慨深い声が紡がれる。
 それと同時にサヤも目を閉じる。
 あの時の思い出――
 思い出とは、どんな物でも美しい、が、サヤは苦渋のためか引きつった笑みを浮かべる。
 ……人には触れられたくない過去という物はあるものだ。
「ねえ、ユウヤ……」
「何だいサヤ?」
 サヤは一息つくと同時に、始業ベルの音が鳴り響く。
「遅刻の理由を、先生には寝坊って伝えておくね」
 サヤは不機嫌そうに聞き返す。
 朝の弱いサヤは目をこすっていると、教室のドアを開いて、先生が入ってきた。
 同じく朝の弱い、頭の中が花畑になっている、演技の細かい人は、ごめんなさいと、しょんぼりした声で言っていた。