本日開店リニューアル

 

「素敵……」
 遊園地の一角にある、わたがし売り場をこそこそと見ながら、理子はうっとりとした声をあげる。
 その売り場には、にこにこ笑いながら、くるくるとわたがしを回しているアルバイト生である、佐藤努が立っていた。
 一目瞭然であるとは思われるが、努は理子の憧れの人なのだ。
 どこが好きだと問われれば、仕草が可愛いやら、笑っている姿を見れば和む、等ようは盲目状態なのである。
「うんとこしょ」
 理子の後ろから、理子にのっかかるようにして、女の子、七海が姿を見せた。
 七海は理子の小さい頃からの大親友である。理子が努を見たいが為に、無理矢理連れてこられたのだ。
 しかし……
「うわあ、可愛いねえ」
「でしょう、でしょう!! あの丸っこくて、ふっくらとしたところなんて最高よねえ」
「うんうん」
 理子の言葉に頷きながら、七海は、
「……欲しいなあ」
と、理子を凍り付かせることを言った。
「え! ちょっと、それは駄目。絶対駄目!!」
 理子は断固として、七海に釘を刺す。
 しかし、七海はぷーっと可愛らしく頬を膨らませるだけで、全然納得がいっていないようであった。
 理子からすれば、完璧な誤算であった。
 努がまさか、七海の好みの相手だったとは……
 七海は、その可愛らしさのせいかどうかは知らないが、とにかくもてる。
 彼女が狙った男の子で落ちなかった人がいないくらい。そして、それが無意識なのが余計にタチが悪い。
 ハムスターみたいに、頬を膨らます七海を相手に何とか説得を試みようとするも、彼女は全然聞いてはくれない。七海は理子が努のことを好きなのを知らないのだから、無理はない。
 だったら、そう言えばいいのだろうが、それは理子の、女の子としてのプライドが許さない。別に彼女と勝負したって、私は別に負け……そうだ!!
「なら、私と勝負しなさい!! 貴方が勝ったらもはや何も言わないわ」
 七海はきょとんとした顔をした後に、こくんと頷いた。
 彼女は何故勝負するかもわかっていないだろう。くく、馬鹿な子。
「幸いここは遊園地。ならば、お化け屋敷に入って、先に悲鳴を上げた方が負けでいいわね」
 えー、と嫌がる声を上げる七海に、理子は有無を言わさず引っ張っていく。
 理子は怖い物が苦手で、七海も怖い物は苦手。勝負の現状は五分と五分。むしろ、普通なら理子のほうが不利なくらいだ。しかし、それはあくまで"普通のとき"の話だ。
こんなこともあろうかと、理子は事前にお化け屋敷の下調べを行っているのだ。
 いくら恐がりといえど、どこに何があるかを先に把握していれば、恐怖の比率は五割減。
 勝負は始まる前からついている物なのよ、と理子は内心ほくそ笑む。
 しかし、その笑顔は凍り付くことになる。
『本日開店リニューアル』
 ……馬鹿な。何だこの看板。
「うわあ、リニューアルだって。楽しみだねえ」
 何も分かっていない、七海は理子の袖を引っ張る。
「いや、ちょっと……」
「早くいこうよー、リニューアルだし」
 いや、リニューアルだからまずいのよ。
 七海は恐がりのくせに、新しい物には目がないからこういうときはタチが悪い。
 泣く泣くお化け屋敷の中に入ると、館の中に流れている空気が妙に冷たかった。
 理子の想像通り、というか想像以上におどろおどろしい。何だこの変化は。当社比六倍くらいすごくなっているではないか。
 しかも、館の中は、どくん、どくんという音がたえずリフレインしている。
 ……いや、待ってください。この音、自分の心臓の音と嫌でも重なるんですけど。
「……理子ちゃん」
 ぽんと、七海が理子の肩を叩くと、
「きゃああああああああぁぁぁぁ!!!」
 決着は、開始十六秒で迎えられた。


「ふ、私の負けね」
 理子が顔を上げると、七海と努が仲良さそうに談笑してる。
 私も女だ。負けは素直に認めよう。
 そう思う、理子の背中には哀愁が漂っている。
「……帰ろう」
 敗者はただ去るのみ。
 理子は二人に背を向けて、とぼとぼと歩き始めた。
「理子ちゃん」
 理子が振り返ると、そこには七海が立っていた。
「無理しなくてもいいよ。理子ちゃんも欲しかったんでしょ?」
 ……ああ。この子、天使だ。
 七海の背後にきらきらと後光が差しているのが、理子には見えた。
 天使の笑みを浮かべた七海は、わたがしを理子に差し出した。
「…………はい?」
「理子ちゃんも欲しかったんでしょう。凄い物欲しそうな顔をしてたよ」
 七海の言葉の意味を理解した理子は、がっくりと肩を落とした。