明日があるさ、きっと。

 

「一体何をしているんですか?」
「……見て、分からないの? 泣いているのよ」
「んー、じゃあ質問を変えます。何で、君は泣いているのかな?」
「嫌なことがあったからよ。ほっといてくれない」
「うーん、君みたいな綺麗な子が泣いていたら、誰も放っておかないと思うけど、まあ。いいや。まあ、泣くのはおよしなさい。きっと、明日いいことがあるから」
「私は明日って言葉は嫌い」
「おや、何でまた?」
「明日いいことがあるかもっていう言葉は、明日悪いことがあるかもしれないって言葉と同義じゃない。今日悪いことがあったのに、明日いいことがあるなんて、とても思えないわ」
「それは、一理あると思うけど。この言葉って、やっちゃったことを後悔しても戻らないから、明日に期待しましょうって意味だと思うんだけど。ことわざだったら、覆水盆に返らずだったからな? 英語だと、零したミルクを嘆いても無駄だ、か。うーん、なんだか英語になると、ほとんど原型留めてないな。何で、こんなに英語の訳は回りくどいんだろ」
「…………」
「ああ、ともかく。ボクの名前は大光陰邪気丸っていうんだ。よろしく」
「……絶対偽名でしょ」
「いやいや、本当だって。ほら、生徒手帳」
「…………」
「実際こんな名前だから、一人称も俺のほうがいいんだろうけど、この見た目の通り、ボクの体って華奢だろう。これで、俺って言っても無理があるし」
「それも、間違ってると思うけど……本当だわ。一体何を考えて、こんな名前を親御さんはつけたのかしら……」
「さあ。名前と親ばっかりは、自分では選べないし」
「まあ、それはそうなんだけど。あら、貴方も高丸高校なのね?」
「もって、ことは君も?」
「ええ。私も高丸高校よ」
「……ひょっとして、佐藤まことって名前ですか?」
「ええ、そうよ。佐藤まことよ。何か悪い!!」
「いえ、いい名前だね」
「当たり前よ。お母さんが一生懸命考えてつけてくれたんだから。私は名前には誇りをもっているわ」
「それはそれは」
「で、私たち何を話していたんだっけ?」
「えーと、そうだ。明日いいことがあるかなんて分からないじゃんってこと」
「ああ、そうだったわね。貴方の変な名前のせいですっかり忘れていたわ」
「まあ、ボクとしては君が泣きやんでくれた時点で、いいんだけどね」
「あ、そういえば。最初の原因はそうだったわね」
「で、何で君は泣いていたの?」
「……別に。好きだった人に振られただけよ」
「なるほど。よくある話だね」
「ええ、よくある話よ!!」
「怒らないで怒らないで……よし、これから合コンをしよう。うん、それがいい。そうしよう。それが一番!!」
「私、そんな気分にとてもなれないんだけど」
「まあまあ。さっきの話しの続きだけど、明日って言葉は実は僕も嫌いなんだ」
「あら。何でまた?」
「うーん、よくある言葉なんだけど。明日やればいい。仕方がないじゃないか。こんな風に逃げの言葉としてしか使われていないから、かな。ボクとしては、何もせずに明日やればいいなんて言っている人に、何か出来るとはとても思えない」
「それは、そうかもしれないわね」
「と、いうわけで合コンに行こう」
「て、何でそうなるのよ。私はそんな気分じゃないんだって」
「んー。ひょっとして、ボクに惚れたのかい。ふ、いけないぜ、ベイベー。ボクに惚れると、火傷じゃすまないぜ」
「あー、それだけはないから大丈夫」
「でしょ。だから、合コンに行こう。丁度、頭数足りなかったんだ。あ、もしもし、悠人? 合コンにいく子決まったよー。でさー……」
「…………」
「……で、ごめんごめん。今日の六時に、駅前で待ち合わせでいいよね?」
「で、私の聞き間違いじゃなかったら、今携帯の先から、貴方のことを呼ぶ言葉が恵子って聞こえたんだけど……」
「うん。ボクの名前恵子だもん」
「て、やっぱりさっきのは偽名だったのね!!」
「んーん。さっきのは名字だもん。ほら」
「大光陰邪気丸 恵子……」
「あははー。引っかかった引っかかった。だって、普通なら名字と名前の間にスペースが一個空くだろう。まだまだ甘いね、ワトソン君」
「誰がワトソン君よ!!」
「まあいいじゃん。実際ボクも六文字も名字がある人はボクの家族以外見たことないけどね。ともかく、今日できる最良なことは、めそめそ泣くことじゃなくて、合コンでいい男をゲットする。これに尽きるね」
「まあ、そうね。泣いて明日を待つよりはましかもね……」
「そうそう。レッツらゴ〜〜」



「どうでもいいけど、その名前ってテストの答案に名前書くとき、大変そうねえ」
「うん、勿論」