仁義なき戦い

 

 僕の名前は佐藤実。実と書いてまことと読む。一風変わったこの呼び方には、結構な誇りをを持っているのだが、そこのところは今は置いておこう。
 それよりも問題なのは、今のこの状況だ。人生における最大のピンチに立たされている。と、いうのも。
「お客様の年齢の確認をよろしいでしょうか?」
 ……何だ、この台詞は。
 僕は年齢制限付きの雑誌を差し出したまま、固まるしかなかった。
 ことの発端は、昨夜に遡る。
 昨日友達を話していたときそういう会話になった。まあ、僕も高校一年生。そういうことは察して欲しい。
 とはいうものの、僕は生まれてこの方一度もそういう本をお目にかかったことはない。年上の兄弟もいないせいか、触れる機会がなかったのだ。そのことを友達に話すと、そりゃあやべえよと言われたのだ。
 なるほど僕は少し異常だったのかと、焦って近くのコンビニに買いに来たのだが、店員は無愛想な顔をしたまま、先程の言葉を言ってきた。固まってしまう僕に対し、店員はむすっとした顔を向けたままだ。
 この野郎。同じ男ならそこのところは察してください。
 しかし、まさかこんな台詞言われるなど思いもしなかった。話によると、エロ本なんて普通なら中学生が買う物なのだ。一応制服なんて着たまま買うような馬鹿なことはしていないのに。やはり、年齢制限付きの雑誌だけを買おうとしたのが悪かったのだろうか。
 たく。この店員、何て名前だよ。須藤か。覚えておくからな。
 気弱な僕は覚えておくことしかできない。
 まあ、それはともかくとして、どうしよう。親に言われて買いに来ましたと言うべきか。煙草や酒じゃあるまいし、それは無理だ。
 店員をぶっ飛ばして逃げ出すか。いや、それは普通に無理。
「あのう。その」
「お客様の年齢の確認をよろしいでしょうか?」
 須藤はテープレコーダーのように同じ言葉を繰り返す。
 僕は諦めて、雑誌を返そうとすると、後ろに人が並んでいた。そして、その人を見て僕は一回死んだ。比喩ではない。これはまごうことなき魂が死んだのだ。
 後ろには同じクラスの女の子が立っていた。
 やばい。やばいぞ。
 いや、ある意味やばいなんてレベルではない。
 相手も僕と同じ女子高生だ。そこらへんの理解はあると思う。今時年齢制限の雑誌を見た程度で騒ぐ年ではないはず。
 しかし、それはあくまで一般的な話。
 今の僕にはそのことが命取りだ。
 僕が通うクラスでは今緊張が張りつめている。この状態で弱みを見せようものならば、立ち直れなくなるまで追い込められる。それは間違いない。散々追いつめられたあげく、最低なあだ名が定着してしまうのだ。そして、それは先生にまで伝染する。狩人が獣を追い立てるような物だ。嫌だ。それだけは間違いなく嫌だ。青色の春をそんなギャグ色一直線な、あだ名で突き進みたくない。僕はそんなギャグキャラじゃない。
 ――どうする。どうする。どうするよ。
 須藤はあいもかわらずむすっとした顔をしたまま立っている。後ろのクラスメイトのせいで、返品するという最良の手段すら失ってしまった。
 僕はそもそもコンビニというところが苦手だ。何故か分からないが、入った時間は異なるくせに、レジに持って行く時間は一緒となるのだ。どうしてだろう。集団心理というやつなのだろ……。
「お客様。ね――」
 現実逃避をしている間に、巻き戻ったテープレコーダーは、同じ言葉を繰り返そうとする。
 仕方ない。僕は思いっきり、息を吸い込み。
「ファッキン。フォーーーー!!!」
 言葉を遮るように、叫び声を上げる。演出のため、両手を天に向けて高らかに掲げた。
 僕はその隙をつき、エロ本を隠し、千円札をレジに置いて、出て行った。よし。完璧だ。後ろの女の子も、無愛想な店員も、目を点にして僕を見ている。
 乗り越えた。やったんだ。僕はヒーローだ。


 次の日、学校へ行くと、
「おはよう、エロ本!」
「…………」
 すでに広まっていた。