世界で七番目くらいにどうでもいい話

 

 僕の夢は偉い偉い勇者さんの手助けをすることだった。
 そして、僕はその夢を果たすために、今この場所にいる。
 今現在の世界事情に置いて、魔王というやつが人をいたぶるために悪さをしている。鍛えた力で弱者をいたぶることの何が悪い、とのことだ。
 まあ、そんなあちらさんの事情は置いておいて、人間側からすればそのままやられっぱなしというわけにもいかない。
 そんなわけで、人類代表の勇者さんが立ちあがったのだ。
 僕は、メチャクチャ強い魔王に挑む勇者さんを尊敬し、少しでも手助けがしたいと思った。
 勇者さんの手助けをするにはどうすればいいのかを、友達に聞いて回ると、とある酒場を紹介されたのだ。一説によると、勇者さんは、仲間を求めたときは、必ずそこにいくという話である。
 というわけで、僕はその酒場の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
 カウンターに座っているお姉さんが、入ってきた僕に挨拶をする。
 一見したところどこの町に見られる普通の酒場にしか見えない。普通と異なるのは、二階があることだろうか。それでも、そのくらいのことは珍しいこととは思えない。
 僕もどうもと頭を下げる。
「それで何のようだい? 一応ここは酒場で、坊やみたいな子が来る場所じゃないんだけど」
「あのう。ここの酒場は勇者さんがよく立ち入る酒場って聞いたのですけど?」
「ほう」
 お姉さんの目は鋭く細められる。
「その話を聞いてきたってことは」
「はい。僕。勇者さんのお手伝いがしたいんです!!」
 僕は出来る限りの熱意を込めて、答えた。
「ふ。君の熱意に負けたよ」
 お姉さんはそう言った。
「それじゃあ」
「ああ、君は合格だ」
 お姉さんは紐をひくと、突如としてお姉さんの座っていた後ろの部分の棚が左右に開き、地下への階段の姿が現れる。
「さあ、ついてきたまえ」
 お姉さんに促されるとおり、僕はお姉さんの後ろをついて行く。
 階段には明かりがほとんどなくて、暗い。それに深さもあるためか、トンネルの中を歩いているような気分になる。壁に触れてみると、ひんやりと冷たかった。
「さて、この場所を知っているということは、細かい話の説明は必要ないだろう。それで、君の得意な分野は?」
「いやあ、お恥ずかしいことに、得意な分野といえることはないんですよね……」
 剣の腕はからっきしだし、魔法もさっぱり分からない。鍵を開けたり出来るほど器用でもなければ、気弱な僕では交渉の役にも使えない。
「つまりは駄目駄目人間なんだな」
 お姉さんは容赦のない言葉をかけてくれる。
「いや、とにかく何でも良いから勇者さんの役に立ちたいんです! 皿洗いでも、漫才師でも何でも。出来れば、勇者さんがピンチになったときに、格好良く救えるようなキャラがいいですけど」
「最後にぼそりと、何か付け足しているような気もしないでもないが、まあいい。それならぴったりの職業があるぞ」
 僕たちの目の前に大きな扉がある。
 お姉さんがそこを開くと、地下とは思えない広大な空間が広がっていた。
 まずは草木。地下のはずなのに青々と健康そうな色を芽吹いている。
 上空には、空と太陽。透明な青色の中に、白い太陽が浮かんでる。
 地上よりも美しい。一瞬、楽園を想像してしまう。
「これは、一体」
 呆然とした声を漏らしてしまう。
「ここはだな。修行の場なのだ」
 何ですと。
「勇者の仲間になるんだから。修行は当然だろう。それとも何かい、君は。皿洗いが勇者の旅に同行できると思っているのかい」
「はい」
「帰れ」
 お姉さんは冷たい一言をくれました。
「いやいや、今の冗談ですよ。ほら、のりってやつです。のり。イッツァジョーク」
 僕は慌てて否定すると、お姉さんは七夜の短刀をちらちらと見せながら、
「次につまらないこと言ったら、十七分割した後に帰ってもらうからね」
 なるほど。面白いことならいいのだ。
 僕はその言葉を胸にしまい込んで、こくこくと何度も頷いた。
「とまあ、君の話を聞く限り、君にぴったりの職業が見つかったぞ」
「職業ですか?」
「うむ。勇者の仲間というくらいだからな。専門職を持っていないとつとまらないのだよ」
「やっぱり、どの時代でも技術と資格は大事ですねえ」
 僕たちはしみじみと頷きあった。
「まあ、それでだ。君の修行すべき、職業は――」
「職業は……」
「遊び人だ」
「えーと」
 僕は頭を一度振ってから、
「遊びが好きな戦士?」
 と聞き返してみる。
 お姉さんは、手に星の光を集めた剣を持っている。
「約束された――」
「待って待って。振らないでください。まじで」
 そんな物を地上で振られたら、大地に決して消えぬ傷が残ってしまう。
「しかし、遊び人ですか……」
「うむ。遊び人だ」
 しっかりと縦に七回も首を振って肯定される。
「しかし、遊び人のどこが、勇者の危機を救える職業なんですか……」
「貴様。ネズミ男を知らないのか」
 お姉さんは呆れ気味に言う。
「知りませんよ。誰ですからそれ。泥棒の名前でしたっけ?」
「全く。最近の若い者は、鬼太郎も知らないのか。やれやれだな。仕方ない一から説明してやろう」
 それから鬼太郎に対するうんちくを小一時間以上話される。
「いや、私が思うにだな。仲間で役に立っているのは、絶対いったんもめんだけだと思うのだよ。そもそも、他の仲間のじじぃやばばぁではなぁ」
 僕ははぁとしか頷きようがない。
「兎に角。鬼太郎の仲間のうちである、ネズミ男は遊び人だ。扱い的にはな。やつは大概遊び人らしくトラブルを持ち込んできてはめためたにするんだ。しかし、肝心なときにおならをして相手をひるませ、鬼太郎の逆転するチャンスを作り出すことが出来る」
 同じようにはぁと気のない返事を繰り返す。
「何だ。そのやる気のない返事は。皿洗いしか出来ないような超絶ウルトラゴージャスハイパークラッキーボンジュール無能者の君には」
「長! というか、絶対無駄な形容詞ついてるし」
 兎に角。こうやって、僕の遊び人への修行が始まった。


「違う。そこはもっと体をひねるんだ!」
「はい!」
「突っ込みの切れが全くたりん。何だそのへっぴり腰は。瓦三十枚くらい割れる鋭さを!」
「はい!」
「何だ、そのボケは。脳みそ詰まっていないのではないか!」
「はい!」
「機械が喋ることか!」
「はい!」


 それから、長い時間が過ぎた。
「ふふ。私から教えれることはもうないな」
「ありがとうございましたー」
 遊び人という職業をマスターした僕は、酒場のテーブルに腰掛けて勇者がやってくるのを待つだけだ。
「あの……」
 まっすぐな目をした少年が、酒場の中に入ってくる。気配だけで分かる。彼は、間違いなく勇者だ。勇者は、お姉さんと話をしている。この酒場に来たと言うことは十中八九仲間を捜しに来たのだ。僕のことをお呼びになるのもう、す……ぐ?
 しかしお姉さんが手を叩くと、扉の奥が開き、精悍な顔をした男と、老成したローブをかぶった老人が姿を現す。
 勇者は彼らを引き連れて、酒場を出て行った。
「え、あれ。その……?」
「ま、当然の話かもな」
 お姉さんは、立ちすくむ僕に近づいて、ぽんと肩を叩いた。
「まあ、気にするな。こういうこともある」
「え、え? 何のことです」
「まあ、なんだ。君はパーティには選ばれなかったようだね。遊び人なんだし、諦めてくれ」
 肩に手をのせたまま言うお姉さんに、僕は呆然と立ちつくすしかなかった。