サヤとユウヤの漂流記

 

 晴れ渡った空のスカイブルー。
 一面に広がる海のマリンブルー。
 そして、照りつける光に反射して、水面は宝石のようにきらきらと輝いている。
「きゃあ、素敵。きれー」
 見る者全てを虜にする自然の芸術にサヤは感嘆の声を上げる。
「ふふん。そうだろう、どんな映像技術でもこの壮大さの前には霞むものさ」
 トレードマークの白衣を海風で盛大にはためかせながら、ユウヤはメガネを押し上げる。
「そうねえ〜」
 サヤは一分ほど、その光景を眺めた後、ユウヤのほうを向いた。
「それでね、ユウヤ」
 サヤはにっこりと、すすまみれの顔で微笑んだ。
「私達はどうやって帰るのかな」
 ユウヤが実験をしている最中に、実験の失敗なのか爆発で吹き飛ばされてしまった二人は、太平洋のど真ん中をゆらゆらと漂っている。
「当然ない!」
 漂流する原因となった大馬鹿は、自信を持ってそんなことを言った。
「ふふん。僕が実験をたがう時点でありえないんだ。そんな準備をしているはずがないだろう」
「あんたのせいなんだから、なんとかしなさいよ!」
 がくがくととんでもない大馬鹿の肩を、力の限り揺さぶるサヤ。
「お、落ち着くんだサヤ。そ、そうだ。こんなときは、カルネアデスの板のように僕がサヤの身代わりに沈めばいいのか」
「あんたが沈んでもどうにもならないでしょうが!」
「大丈夫だサヤ。僕は君のためなら、死ぬことさえもいとわない!」
 どきりとすることをユウヤは平然と言ってのける。
「あ、その……」
 サヤは急にしおらしく、もじもじとしてしまう。
 いくら、ユウヤがとんでもない馬鹿だからといって、こんなことを言われると気恥ずかしい。
 けれども、サヤはその十秒後に肝心なことを思い出す。
「だから、こんなことになっているのはあんたのせいじゃない」
 景気の良いチョップの音が、太平洋の海上で響き渡った。


「うう、本当にどうしよう」
 ユウヤをぼこぼこにしたおかげで、少しは気が紛れたのだが、ピンチな状況には変わりない。食べ物もなければ、水もない。そもそも太平洋の何処にいるのかもわからない。
 すっかりとやさぐれてしまったサヤは、水面を蹴飛ばした。
「食べ物なら問題ないよ」
「ほえ?」
 ダメージからようやく回復したユウヤはそういうと、白衣の内から一本の釣り竿を取り出した。
「ど、どうしてそんな物を持っているのよ」
「生きていくために必要だからだよ。他にもほら」
 その白衣の何処にしまっていたのか、サヤには仕様用途の分からない物が出てくる出てくる。
「これが、飲料水製造器に、これが、超火力バーナー。これは、虫取りアミ。そして、これが……」
 ここまで来ると、感心するのを越えてサヤは呆れてしまう。
「安心したまえ、君のことは僕が絶対守る」
「はあ……」


 人が恋に落ちる一番簡単な方法は極限状態だ。そんなものは太古の昔から決まっている。
 ユウヤは確かに、とんでもない馬鹿ではあるが、とんでもない天才だ。今まで、実験における計算を違ったことは一度もないのだから。
 つまりこれは、ユウヤの計算の内である。
 実験事故に見せかけて、サヤと二人きりになる。そのためだけに、わざと事故を起こしたのだ。
 そして、今に至る。
 ……計算通り。
 ユウヤは内心でにやりとほくそ笑む。
 これだけ自分が頼りになるところを見せたのだ。
 さあ、後は映画のようにヒロインの口づけを……。
「おーい、おめえら何してんだ?」
 近づいてきたクルーザーから、そんな声が二人にかけられた。


「いやあ、助かりました。本当どうなるかとー。て、ユウヤ。何で落ち込んでいるの」
「別に……」
 サヤが助けてくれたクルーザーの人達にお礼を言っていると、ユウヤは隅っこのほうで体育座りをして、何かぶつぶつと呟いている。
「……次は、吊り橋効果か。さすがにストックホルム症候群は嫌だし……」
 ……実に、めげない男であった。