どうして、夏よりも冬の方が、空が透き通っているのかは知らない。
「冬の方が温度が低くなるからね。そのぶん、空気中の水分が少なくなって、そのぶんゴミも減るからよく見えるって、誰か言ってた気がした」
真面目な顔をしてそんなこと言っていた人のことを思い出してしまう。
本当なのかしら。
どちらにせよ、冬の空のほうが夏の空よりも澄んでいるのには変わらないし、冬に打ち上げられる花火は決して時期はずれとは思わない。
ぱぁんと爆弾のように破裂して広がる炎の線は、夜空に溶けて消えていく。最近の花火は凝っていて、本当にバリエーションが豊富だ。メロンパンのような一見しても分からないようなものから、ドラえもんのようなキャラクターをかたどったものもあり、思わず口元が弛んでしまう。
私は海岸に一人立ちつくして、打ち上げられている花火を見つめてる。祭りの明かりも遠くに見えるこんな場所に人が来るはずもない。
彼と私の秘密の場所だ。私たち以外この場所を知る人はいない。
この場所で、彼と二人きりで見る花火が好きだった。
冬の澄んだ空に打ち上げられる花火が好きだった。
でも、彼は死んでしまった。交通事故であっさりと、何の感慨にふける暇もなく。
「いつもの場所でね」
それが彼の最後の言葉。
私たちにだけ分かる暗黙の場所。
二人だけの楽園だ。
ここには誰も来ることはない。
彼は死んでしまったのだ。どれだけ待っても絶対に来るはずがない。
そのことが分かっているのに、どうして私はここで待ち続けているのだろう?
この場所は誰にも知られない場所。
だから、ここで"人が死んでしまっても"誰にも分かりはしない。
私はいつまでこの場所にいなければいけないのだろう?
来るはずのない彼を、いつまで待ち続けなければいけないのだろう?
夏の影のように強く焼き付いてしまった私は、独りただ遠く夜空に消えゆく花火を見つめてる。