ぐらノンフィクション

 

 夜十時ごろ、コンビニに飲み物を買いに行った帰りのことだ。
 通り道には公園があるのだが、下を向いて歩いていると奇怪な模様が土に描かれていたことに気がついた。何が書かれているのだろう。私は一歩はなれて、模様の全体を見てみる。どうやら、大きな字がかかれているみたいだ。


 おにいちゃん


 どこいった


「何これ」
 思わず口走ってしまうが、首を横に振る。
 一瞬、背筋にうすら寒いものがはしってしまっただけで、別にただの子供の落書きじゃないか。疑問に思うほどのことでもない。
 大方、かくれんぼでもして、大人げのない兄がむきになって隠れたりしてしまったのだろう。私にも覚えがある。
 そんな風に思うものの、不思議と頭から先ほどの言葉が離れない。
 家へと帰り、風呂につかると、ぼんやりと色々なことが頭の中に浮かんでくる。
 もしかしたら、死んでしまった兄のことを知らずに探し続けているのか。自分が死んでしまっているのに気づかず延々と探しているのか。
 ホラーと結びつけて、考えてしまうのは、最初に見たときにぞくりとしてしまったからだろう。


 次の日、あの公園を通りかかると、なにやら人が集まっていた。
 野次馬の中に見知った顔がいたので、何があったのか尋ねてみると、どうやらこの公園で殺人事件があったらしい。
 私は否が応でも、昨日の落書きが思い浮かぶ。
 予想通りと言うべきか。
 小さい子供が刺殺されたという残虐な事件のようだった。
 私は何だか気にかかることがあったので、昨日の何時ごろにおこったのかを尋ねてみる。
 事件は夜の九時に起こったらしい。
 自分が通ったときには、すでに事件がおこっていたのを知ると、私は意識が遠のきそうな思いがした。
 しかし、友人は私の気を知ってか知らずか、興奮した様子で言葉を続ける。
 この公園に、被害者のものと思われる、落書きがあったそうだ。


 おにいちゃん


 どこいった


 ゆるさない


 と。