彼女の手紙

 

 こんにちは。
 メールではなくて、手紙というのは久しぶりです。
 高校に入学してもう一月が過ぎましたね。
 たかき君は新しい学校にはもう慣れましたか。
 私はまだまだ慣れません。
 今回手紙を送ったのは、他でもありません。
 もう、手紙を送るのは止めようと思います。メールも送りません。
 いきなりこんなこと言い出して、本当にごめんなさい。
 でも、私はこのままじゃ駄目だと思うの。
 前に、たかき君は言ったよね。
 手紙の中の私は、いつもひとりぼっちに見えたって。
 その通りなの。
 私には、たかき君以外の友達が誰もいなかった。
 中学の卒業アルバムを見て、びっくりしたわ。どの写真を見ても、私は笑っていなかった。写真に写る同じ部活の人達は誰もが笑っているのに、私だけ笑っていなかったの。
 それを見て、私は気づいてしまいました。
 私の世界には、あなたしかいないということに。
 私の時間は、あの日、たかき君が来てくれた日から止まっているの。
 私の世界はとても窮屈で、そのために絶対で、たかき君とのことだけが正しくて。
 あなたのことは、すごく大好きです。
 初めて携帯電話を買ったとき、嬉しくて一晩中メールを交換したね。
 読んだ本の感想を言い合ったね。あのシーンが嫌いだ、なんて些細な感想も送りあいましたね。
 あなたからの手紙が届けば心がはずみ、メールのない日は胸がしめつけられるほど切ないです。
 あなたが、その日何があったのか、誰と話したのか、何を食べたのか、どんなテレビ番組を見てるのか。そんなことをずっと思っています。
 あなたがいるはずもないのに、まるでその声が聞こえたような気がして、その姿を目で追いかけて。
 毎日、毎日、あなたのことばかりを考えています。
 なぜなら、私の話を聞いてくれるのはあなただけだったから。
 そのことに気がつくと、私はいてもたってもいられない気持ちになりました。
 私は、たかき君のことしか知らないから、あなたを好きなのではないか。
 そう思うと、最後に会ったときから溶けていない雪の世界に、まるで初めて朝日が差し込んできたかのようでした。
 私は恋をしていたのではない。
 ただ、自分の知っている世界に依存していただけなのです。
 いっぱい本を読んできて、たかき君はあまり好きじゃなかったけど、恋愛に決まった形がないことは知っています。
 私たちの関係も決しておかしなものなんかじゃない、いえ、私のような子にとっては憧れにも似たぬくもりに包まれた時間でした。
 でも、私はその温かさだけを求めてしまいました。
 あなたには、あなたの世界がちゃんとあるのに、やりたいことがはっきりとしているのに。
 私には、何もないの。
 私はこの時間が、ずっと続けばいいのにとだけしか願えないの。
 そんな自分のことがつくづく嫌になります。
 だから、私は自分の足で立ってみようと思います。
 まだ勇気が足りないけれど、この広い世界に足を踏み出してみたい。
 だから、この手紙を最後にしようと思います。
 私の言葉は本当に勝手なことだと思います。
 でも、たかき君だから、たかき君だから、言いたかった……。
 私の本心を聞いて欲しかったの……。
 それでは、体には気をつけてください。
 私の初めての、大切な友達へ。

      

[ Next : NovelTop ]