とてもとても甘い後悔ね。
なんて甘美そうなお話でしょう。
その過去とても喰らってあげたいわ。
でも、一つだけ聞かせてくれないかしら。
貴方は、彼との思い出を差し出すことで、彼が好きな物語を描く時間を取り戻したいのかしら。
「いえ、それは違います」
あら、そうなの。
「確かに、その言葉は後悔してます。私が感動的な物語が好きって言わなければ、彼は自分の好きな物語を書き続けていたと思う。でも、書きたくもない物語を書いていたなら、絶対にありがとうなんて言えないと思うから」
じゃあ、どうして彼との思い出を、きっかけを差し出すのかしら?
「本当は、絶対に手放したくなんかない。私はまだ、ありがとうって伝えてない。でも、彼との思い出が一番大切だから。私の中で一番価値のあるものだから。私は、大切なものをくれた水瀬君に何か少しでも返したい」
くすくす。
まあ。何ていじらしくて愚かで、甘ったるい想いでしょう。
貴方の過去を食べたら、胸焼けを起こしそうね。
だけど、私が過去を喰らったところで、彼が目を覚ますとは限らない。
ただ、貴方の想いが、消えてなくなってしまうだけかもしれない。
それでも、いいのね。
そう。
何て、愚かで自分勝手な子。
思い出とは人が生きた証だというのに。
しかも、貴方はそれが相手にとっても大切なことだと理解しているのに。
貴方の勝手な行動で、彼の大切な時間をも奪い取るとはね。
まあ、いいでしょう。
ならばその過去、私が喰らってあげる。
だけど、一つだけ教えてあげるわ。
人はとても愚かしい生き物。
過ちを消したところで、過ちを知らなければ、同じ過ちを必ず繰り返すということを。
もっとも、覚えておくなんて、無理な話だけどね。